-- 古代アナサジフルート --

アナサジフルートの吹き方、概説1

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートは北米アリゾナ州の洞窟遺跡から発掘された1400年前の古い笛です。長尺を活かした豊かな低音と、オーバートーンによる華やかな高音が魅力です。
» アナサジフルートを吹いてみた

これからアナサジフルートの吹き方について説明していくわけですが、まず概説からはじめましょう。雑学として友だちに吹聴してください。
以下はアナサジフルートの研究家であるスコット・オーガスト氏のウェブサイトを翻訳しました。
» アナサジフルート概説のオリジナルページ

概説

ふつうのインディアンフルートとまったく別の笛です。
古代プエブロインディアン=アナサジの笛。マイケル・グラハム・アレン(別名コヨーテ・オールドマン)がこれを復元しました。彼は、歴史家と著者であり熱心なコレクタでもあるリチャード博士から提供された発掘品を寸法測定してこれを復元したのでした。

アナサジフルートは他のふつうのインディアンフルートのように西洋文化の影響を受けていません。その意味でアナサジフルートは本当の"ネイティブ・アメリカンの笛"なわけですが、以下で説明するように、世界中の笛と同じような特徴を共有しています。

アナサジフルートと近代インディアンフルートとの大きな違いは、音の出し方にあります。
近代インディアンフルートがリコーダのような構造をしているのに対して、アナサジフルートは管の縁を吹いて鳴らす笛です。管の縁を吹いて鳴らすやりかたは、世界のいくつかの古い笛に見ることができます。最も古いものの1つは中東のネイで、起源はピラミッドの時代までさかのぼります。ネイとカヴァルは現在のトルコで見かけます。管の縁を吹く笛で一番有名なのは日本の尺八です。南米西部にはケーナと呼ばれる笛があります。北米のホピ族ではいまだに祭事でこのタイプの笛を演奏します、南カリフォルニアでもインディアンたちがニワトコでつくった笛を吹きますが、もうあまり見かけません。

演奏技術

近代インディアンフルートとちがって、演奏者は音を出すために管の縁に唇を当てるやり方を学ばなければなりません。最初に音が出るまでに、初心者なら1時間~1週間かかるかもしれません。私(スコット・オーガスト本人)は幸運にも1時間で鳴らせましたが、4ヶ月経っても音を出すのに苦労することがありました。

アナサジフルートは単なる空洞の木管です。管の縁の薄い部分が歌口です。演奏者は下唇と顎で管の開口を塞いで、歌口の向こうへ息を吹きます。息を歌口に正しく当てないと音が出なかったり、キーキー鳴ったりします。

音階

アナサジフルートの全長は76cmで、一番下の穴は、頭から64cmのところに開いています。材質は杉。全部の指穴を押さえたときの音がG#で、驚くほど近代インディアンフルートに近い五音階です。ただし近代インディアンフルートがマイナー(ラの音からはじまる)なのに対して、アナサジフルートはメジャー(ドの音からはじまる)です。ドからはじまる五音階はドレミソラ、アナサジフルートはこれにミbが追加されています。

ピッチはG#,A#,B,C,D#,F,オクターブ上の音…です。
強く吹いて鳴らせるオクターブ上の音はG#,A#,B,C,D#,2オクターブ上のG#。
指穴を一つとばしにふさぐことによってG,F#,Eのような半音を出すこともできます

アナサジフルートの指穴の位置は近代インディアンフルートと違っていて、写真を見てのとおり上下の三つの指穴の間に大きなひらきがあります。

…長いので次回に続きますね。

アナサジフルートの吹き方、概説2

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
前回に続いて、スコット・オーガスト氏の記事を翻訳しつつアナサジフルートの概説です。
» アナサジフルート概説のオリジナルページ

歴史

アナサジフルートの歴史は西暦500年までさかのぼります。この時代、北米フォーコーナー地域の文化をバスケットメーカーと呼んでいます。ちょうど土器が作られはじめた時代で、機織りはまだでした。メサベルデの崖に家が建てられたりチャコ渓谷にプエブロ大集落ができる前の話です。人々は竪穴式住居―アースロッジ―に住んでいました。ココペリのような、壁画アートが最頂点に達した時代です。
アナサジフルートはココペリの笛です。

かつてニューメキシコでアステカのすばらしい住居跡を再建したアールモリスが、1931年に北アリゾナのプレイヤー・ロック―キャニオン・デ・シェイの近く―を調査していて、洞窟で四本の笛を掘り出しました。(後で彼はその洞窟にブロークン・フルート・ケーブと命名しました。)これらの笛は、内部を容易にくり抜くことができる芯の柔らかいトリネコバカエデでできていました。(南カリフォルニアの同様の笛もまた、芯の柔らかいニワトコカエデで作られます。)

またモリスは1934年に、キャニオン・デ・シェイの一部であるキャニオン・デル・ムエルトのムリー・ケーブで、同様の笛を見つけました。これらの中には指穴が5つだけの笛もありました。この5穴の笛は1900年代に確認されたホピ族の笛に一致します。つまり1,500年の歴史を生き延びたことになります!これらの笛はコロラド大学のボウルダー氏のコレクションであると報告されています。

モリスはナショナル・ジオグラフィック・マガジンの記事で、笛の埋まっていた状況をつぎのように説明しています。

老人の遺体―おそらくかつての長老または聖職者だったと思われる―の傍らにビーズ、かご、およびサンダルといったよくあるお供え物があって、バックスキンに包まれた笛が、片方の端が顎の下、もう片方の端が腿の間にくるように置いてありました。左側には木製の器具がたくさんあって、みな腐りやすいものなのですが、それらは珍しく非常に完全な状態でした。それらの中で目立つのは、骨を先端にかぶせたフリント製のフレーカ―これでナイフや矢尻を作ります―と、数本の槍と四つの見事な槍投器と、もう三本の笛でした。

注意
以上の私(スコット・オーガスト本人)の笛の研究において、特にモリス氏の発掘品に関して、私はまだ整理できていないので年代に食い違いがあるかもしれません。

…スコット・オーガスト氏の記事の翻訳は以上です。次回からアナサジフルートの鳴らし方を説明します。

アナサジフルートの吹き方、音を出す1

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートは音を出すのに一苦労です。音を出すために知るべきことはそれほど多くありませんが、自分で実際にできるようになるには長い練習が必要でしょう。

各部名称

便宜的に名前をつけておきます。

  • 歌口
  • 開口
  • 指穴

なぜ音が出るのか

アナサジフルートの吹き方は尺八と同じです。というか北米の演奏者―コヨーテ・オールドマンやスコット・オーガスト―がアナサジフルートを吹くにあたって日本の尺八を参考にしている節があります。尺八を吹く姿ならTVで見たことあるでしょう。管を顎にあてて歌口に息を吹きかけて鳴らします。

息は、実はほとんど管の中に入りません。歌口の上をすべっていく感じです。息が歌口の上をすべっていくとき、歌口のエッジにひっかかり、薄く削げて空気の渦を巻きます。巻いた渦がノイズを発生し、管に共鳴して音になります。

唇の形

  1. まず無表情をします。自動車免許証の写真のような顔です。唇は閉じています。
  2. 唇を閉じたまま、上下の前歯の間に少しだけ隙間をあけます。
  3. そのまま息をゆっくり吐いてみてください。唇を閉じているので息が唇の手前に溜まってきます。
  4. 更に息を吐いてください。溜まった息に押されて上下の唇が前歯から浮きあがります。
  5. 更に息を吹くと、ついに唇の間から息がぷしゅーっと漏れてきます。

これが尺八の自然で理想的な唇の形なんだそうです。私はまだまだ力が入ったり、唇の端を引きしぼったりしてしまいます。最初は鳴らせるようになることが最優先課題なので、力が入ったり引きしぼったりしてもいいと思います。でもいつかは美しい音色で演奏できるように、頭の片隅にいれておいてください。

笛を唇にそえて、吹く

最初は運指を気にしないでください。指穴はぜんぶあけたままです。

  1. 歌口を唇の先ではさむように、笛を顎に当てます。
  2. その状態から先の要領で息を吐きます。いきなり音が出るかもしれませんが、そこはよいポイントではありません。
  3. 笛をほんの少しずつ下に傾けていきます。唇と歌口の間に少しずつ隙間があいていきます。
  4. どこかで笛が鳴ります。場合によっては顎に当てている笛の位置をずらしたり、顎を前後させて息の方向を調節する必要があるかもしれません。
  5. 鳴ったらもっとはっきりきれいに鳴るように試行錯誤します。

» アナサジフルートが鳴る息の方向を探す

吹けば鳴るように

笛を唇に当てて、吹けば鳴る。こうなって初めてアナサジフルートを鳴らせるようになったといえます。ここまで早くて数日コースで、この後、運指を覚えて音階を吹けるようになるのに数ヶ月。人に聴かせられる演奏ができるようになるには…。

難しいからこそ

なぐさめになる話を一つすると、あなたが大変だということは他の人も大変だということです。あなたがアナサジフルートを思いのまま吹けるようになったとき、他の人はちょっとやそっとではマネできません。

想像してみてください。あなたが小さな音楽会を開いてアナサジフルートを披露したとします。お客さんの一人が「すごい感動しました、ちょっと吹いてみていいですか。」とやってきて、へろへろっとあなたよりずっと素晴らしい演奏をする…まったくの初心者がですよ。あなたの面目は丸つぶれでしょう。

困難だからこそ上手になって、アナサジフルート教室を開いてお金を儲けてやろう、生徒さん相手に大きな顔をしてやろうと野心を持ってください。そしてそれは実際に可能です。

アナサジフルートの吹き方、運指 1

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートは音を鳴らすまでが一苦労です。とりあえず鳴らせるようになった?なら左手の運指だけでも覚えましょう。

上の3つの指穴を左手で押さえる

アナサジフルートは上の3つの指穴を左手の人差指、中指、薬指で押さえます。指穴は指の腹(爪の反対側、指紋のある部分)で押さえます。

  1. おさらいです。指穴をぜんぶ開けてアナサジフルートを鳴らします。
  2. 一番上の指穴を押さえて音を鳴らしてみます。
  3. きちんと鳴ったらOK,もう一つ指穴を押さえて鳴らしてみます。
  4. きちんと鳴ったらOK,三番目の指穴も押さえて鳴らしてみます。

音がかすれてきた、鳴らなくなった場合は、指穴をぜんぶ開けて最初からやり直します。
音が鳴らなくなるときは次の原因がほとんどです。

  • 息の角度が狂ってきた…唇の形、笛の角度などを調節します。
  • 指穴をきちんと押さえていない…指穴はぴったりふさぐこと。

指穴を上から順に押さえると「ミ・レ・ド・ラ」に聞こえます。

» 上から順に指穴を押さえてミレドラ

吹くときのコツ

一音一音を「ふぉーっ、ふぉーっ」と唇で区切って吹くとやわらかい音になります。

大きな笛の指穴を押さえるには

笛の指穴はふつう、指の腹(爪の裏側、指紋のある部分)で押さえます。
しかしlowDクラスの大型の笛(吹口からいちばん下の指穴まで44cm)になると、指穴を押さえることができない人も出てきます。指穴を押さえることはできないけれど、どうしても大型の低音の笛を吹いてみたい。そんな場合はどうすればいいでしょうか。

なせば成るが問題も

もしぎりぎり押さえられるのであれば努力でなんとかなります。私も最初は指穴を押えることができなくて、吹けない笛を買ってしまったと後悔しました。それでも思い出すにつれ未練がましく挑戦していたら少しずつ指が曲がるようになって、今では不自由なく吹くことができます。人間の身体の柔軟性には目を見はるものがあります。

とは言え、確かに私のようにムリして指穴を押さえることはできますが、結局、指が不自然に曲がって力んだ状態になっていますから、遅れたり疲れたりと、演奏上の問題を抱えてしまいます。

指の関節と関節の間で押さえるのが定番

縦笛、横笛にかぎらず大きな笛を吹くときには、写真のように指をまっすぐ伸ばして、指の関節と関節の間で指穴を押さえます。これは世界中の笛でそのようにします。ムリに指の腹で指穴を押さえるよりも本当はこちらの方がよいです。疲れないし速く動かせるし。

  • 薬指はふつうに指の腹で押さえてOK
  • 人差指と中指は、指の関節と関節の間で指穴を押さえる

アナサジフルートの吹き方、運指 2

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートの左手の運指を覚えました。続けて右手も少しずつ覚えましょう。

上から4番目の指穴も押さえる

アナサジフルートの上3つの指穴は左手で押さえます。下3つの指穴は右手で押さえます。とりあえず下3つのいちばん上の指穴―いちばん上から数えて4番目の指穴―を右手人差指で押さえてください。
音階は上からミレドラソ#になります。
» 上からミレドラソ#

ソ#はなんだか暗い憂鬱な雰囲気の音です。この音は実はほとんど使いません。運指の練習として今だけ使います。

例題

1. ラードソ#ー
2. ラードレー
3. ラソ#ーレミーレー
4. ドーラー

» こんなふうに吹いてみました。

前回に説明したとおり、音の強弱に気をくばってください。いきなりマックスでプーッと吹きはじめてプツッと終わるのではなくて、一つ一つの音の形をきれいに出すように気をつけること。ぜんぜん違って聞こえます。

高いオクターブの出し方

3.の頭の「ラソ#」は2オクターブ目の高い音です。これは運指はそのまま、勢いよく吹いて鳴らします。唇をぎゅっと締めて少しだけ強めに吹くと細い鋭い息になります。ホースの先を指でつぶすと勢いよく水が飛び出るのと同じです。

ビブラートのやり方

長く伸ばす音は、途中からピーー~~~とビブラートをかけて音をゆらすといい感じになります。

笛は息を強く吹くと大きな音がしますし、弱く吹くと小さい音になります。息を「強く弱く強く弱く…」と交互に繰りかえすと、音がゆれてビブラートになります。ゆっくりあるいは速く、大げさにしたり控えめにしたり、いろいろやってみてください。

いまひとつ要領がつかめない場合は、笛を吹きながら「うっふっふっふっ」と笑うとビブラートができます。(ただそれではちょっと強すぎる、もっとジェントリーにします。)

アナサジフルートの吹き方、運指 3

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートの上から5番目までの指穴を押さえることができれば、ちょっとした曲なら演奏できます。

上から5番目の指穴も押さえる

アナサジフルートの上3つの指穴は左手で押さえます。下3つの指穴のうち上2つ―いちばん上から数えて4番目と5番目の指穴―は右手人差指と中指で押さえます。アナサジフルートは大型の笛なので、そろそろ指穴を押さえることが難しいかもしれません。身体をよじったり、いっそ指穴を指の関節と関節の間で押さえたりして乗りきります。

音階は上からミレドラソになります。前回せっかく覚えたソ#はもう使いません。これで五音階の音がぜんぶそろいました。ちょっとした曲なら演奏することができます。
» 上からミレドラソ

例題(アメイジング・グレイス)

1. ソドーミレドミー レドーラーソー
2. ソドーミレドミー レーミソー
3. ミソーミレドミー レドーラーソー
4. ソドーミレドミー レードー

» こんなふうに吹いてみました

一つ一つの音の形をきれいに、気をつけて。長く伸ばす音にはビブラートをかけてみましょう。

装飾音について

演奏の中にヒャラッと入る装飾音は、今指穴を押さえている指…のうちいちばん下の指をパタッとすばやく開けて閉じます。
» 指穴を押さえている指のうち、いちばん下の指をパタパタとさせる

装飾音については次回に詳しく説明します。

アナサジフルートの吹き方、運指 4

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートのいちばん下の指穴を押さえるのは難しいですが、音を出すのはもっと難しいです。

いちばん下の指穴まで押さえる

アナサジフルートの上3つの指穴は左手で押さえます。下3つの指穴は右手で押さえます、いちばん下の指穴は右手薬指で押さえます。

…指は届きますか、手首は痛くないですか。
(私は最初は痛かったです。)アナサジフルートは大型の笛なので、全部の指穴を押さえるのはなかなか大変です。身体を右手の向きにひねったり、指の関節と関節の間で指穴を押さえたりしてどうにかこうにか乗りきってもらうしかありません。

いちばん下の音はきっと鳴らない

無事にぜんぶの指穴を押さえることができたとして。
まあ、鳴らないです。管が長すぎるんです。注意深くそうっと吹きます。長い管の中で空気がかすかに振動しはじめる、そこに息を吹きこんで少しずつ大きな音に育てあげるような感じです。ちょっとでも荒く息を吹きこむとあっけなく壊れてキーキーいう音になります。

人間は慣れるもので、じきにすぱんと最低音を鳴らせるようになります。
この、ぜんぶの指穴を押さえたときの音こそがアナサジフルートの音と言っていい。大切な音です。
» ぜんぶの指穴を押さえたときの音、いろいろ

アナサジフルートの吹き方、運指 5

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートのぜんぶの指穴を押さえられるようになったところで、新しい音階を覚えます。

新しい音階

今まで説明してきたアナサジフルートの音階は下からソ、ラ、ド、レ、ミ、ソ、ラ、…でした。

ぜんぶの指穴を押さえられるようになったところで、新しい音階を覚えましょう。下からド、レ、ミ、ソ、ラ、シ、ド…です。ファがあればドレミファソラシドがぜんぶそろうんですけどね、ファがありません。残念。
» 下からドレミソラシド

これでアナサジフルートで、二つの音階を使えるようになりました。実際は今回覚えた音階をメインで使います。音域の広さがぜんぜん違うので。

実践(ドボルザークの『家路』)

ミーソソー ミーレドー レーミソーミレー
ミーソソー ミーレドー レーミーレードドー
ラードドー シーソーラー ラードーシーソーラー
ラードドー シーソーラー ラードーシーソーラー
ミーソソー ミーレドー レーミソーミレー
ミーソソー ドーレミー レードレーラードーー
» ドボルザークを『家路』を古代アナサジフルートで吹いてみた

ドボルザークの『家路』って五音階でできてるんだ、というのが分かります。(途中でシを使っていますが。)メロディーは簡単です。一つ一つの音の形を大切に。いきなりプーッと吹かない。そっと吹き始めてそっと終わる…私はすこしやりすぎて、ベタベタした感じの音になってしまいました。
長く伸ばす音にはビブラートをかけて上手っぽく聴かせます。

アナサジフルートの吹き方、運指 6

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートの2オクターブ目の運指は、1オクターブ目とかなり違っています。

2オクターブ目は右手だけで

とりあえず2オクターブ目の運指を見てください。

アナサジフルートの2オクターブ目は右手だけで吹きます。左手の指穴はずっとふさいだままです。左手を使っちゃいけないのか?試しにやってみるとすぐにわかりますが、2オクターブ目は左手の指穴が役に立ちません。

» アナサジフルートの2オクターブ目

高い音ほど息を強く鋭く

2オクターブ目の運指表を見ると違う音なのに同じ指使いが出てきます。右手しか使っていないので当然そうなります。これは息の強さで吹き分けます。高い音ほど唇を引きしめ強く吹いて鳴らします。耳鳴りのような音で、これは倍音です。

1オクターブ目と2オクターブ目で極端に音色が違うのがアナサジフルートの特徴です。

アナサジフルートの吹き方、運指 7

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートの3オクターブ目より上の音は効果音的に使えるかな、という感じです。

どこまでいけるのか

3オクターブ目より上の音の運指です。(これを運指と言っていいものかどうか。)

» アナサジフルートの3オクターブ目の音

どこまで出せるかは気合いです。同じ原理で鳴らすオーバートーンフルートから考えると4オクターブ目まで届くはずなのですが。私はソの音で早々とギブアップです。

この領域でメロディーは吹けないでしょう。効果音的に使えばいいのかな、とか考えています。

アナサジフルートの吹き方、運指 8

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートの下から3番目の音を使うと日本を思わせる音階になります。

日本を思わせる音階

アナサジフルートの2とおりの音階を説明しました。他にもう一つ音階が使えます。

» アナサジフルートの日本的音階

例題(五木の子守歌)

ララシドミラーシー
ドミミードミファミー
ドミファラーファーミードシラー
ドシラーシーラー
» 五木の子守歌をアナサジフルートで吹いてみた

本当はラより低い音が出てくるのですが、そこはごまかしています。
日本の子守歌ってファの音を使いましたっけ、なんか間違えてます?「短調の曲だから最後の音をラ」として、そこから逆算してドレミを書いたのですが…

アナサジフルートの吹き方、運指 9

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートでふつうの曲を吹くこともできます。

ドレミ音階の運指

アナサジフルートでふつうの曲を吹くときの運指は下の図のとおりです。

» アナサジフルートでドレミファソラシドを吹いてみました

試聴サンプルはアーストーンフルートのアナサジフルートA管で吹きました。

ふつうの曲を吹くのに使える音域は1オクターブ半。
ただし下のソの音が使えるので吹ける曲はけっこう多いです。高いソラシドの音は、倍音を使って出すためピッチが微妙です。試聴サンプルを吹いた私のアナサジフルートは高い音が上ずります。そうでもないフルートもあります。

アナサジフルートの吹き方、装飾音 1

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
演奏の中に装飾音を入れるとアナサジフルートの音色がぐんと引きたちます。

できるだけすばやく!

演奏の中に入るヒャラッという装飾音は、今、指穴を押さえている指…のうちいちばん下の指穴をパタッとすばやく開けて閉じます。
図の赤の指穴をすばやく開けて閉じます。

ミの音は…これ以上指穴の開けようがないので装飾音を入れることができません。
レの音を鳴らしているときは左人差指をパタッとさせます。
ドの音を鳴らしているときは左中指をパタッとさせます。
ラの音を鳴らしているときは左薬指をパタッとさせます。
ソの音を鳴らしているときは…右手人差指と中指を同時にパタッとさせます。
※の音は…まだ練習していませんが右手薬指をパタッとさせます。

» 装飾音を入れながら

この指穴を「開けて閉じる」というのは一瞬です。むしろ「開けて」が無くて「閉じる」だけの感じです。TVゲームのボタンを押すような感じです。押す、押すっ、押すっ!ってな感じです。

アナサジフルートの吹き方、装飾音 2

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートの演奏中にどこに装飾音を入れるのかは、なんとなく法則性があります。

同じ音が続くときに区切る

曲の中で同じ音が続くときがあります。「ぼくのだいじなクラーリネット、パパからもらったクラーリネット」みたいなところです。このようなところはふつうは息を切って音を区切るのですが、息は吹き続けたまま装飾音で区切るようなことをします。
» 息で区切って、それから装飾音で区切って

上の視聴サンプルでは息を切って音を区切るとき、舌先で「トゥートゥートゥーー」と息を切っています。

メロディーが上がりきって…下がった瞬間

曲の中でメロディーが上がったり下がったりします。(音が高くなったり低くなったりすると言ってもいいです。)そのメロディーが上がったり下がったりしているときに、上がっていって…下がる瞬間。この下がる瞬間に装飾音を入れます。
» 上がったり下がったり、下がる瞬間に装飾音

必ずこのように装飾音を入れるわけではありませんが。このように装飾音を入れておけば、まず外れません。こんないい加減でなくて、もっと的確に装飾音をキメたいなら?CDの気に入った曲を何度も聴いて身体に染みこませます。

アナサジフルートの吹き方、装飾音 3

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートの装飾音には、今まで説明したのと逆のやり方があります。

閉じて、開ける

今まで説明してきた装飾音は、指穴を一瞬「開けて」→「閉じて」いました。それとは逆に「閉じて」→「開ける」やり方があります。今鳴っている音…の一つ下の指穴を一瞬叩きます。
» 一つ下の指穴を「閉じて開ける」

日本の笛のマネかも?

この装飾音はアナサジフルートの先駆者コヨーテ・オールドマンさんが多用しますが、他の人の演奏では聴いた記憶がありません。因みにふつうのインディアンフルートでもこの装飾音は使いません。

私の推測なのですが。
アナサジフルートは1400年前に失われた笛です。これをコヨーテ・オールドマンさんが復元したわけですが、それでどんな演奏をしていたかなんてまったく分かりません。そこでオールドマンさんは何かの笛を参考にしてアナサジフルートの演奏スタイルを立てました。その参考にした笛というのが…どうやら尺八らしい。
(彼のウェブサイトで「演奏テクニックは尺八に近い」と説明しています。)

そして日本の笛は、この「閉じて開ける」方式の装飾音も使います。
コヨーテ・オールドマンさんは尺八の演奏スタイルを取りいれたときに、一緒にこの装飾音も取りいれたのではないかと、私は推測します。

使いどころがなんとも

とにかくコヨーテ・オールドマンさんしか使わないので、どう使えばいいという説明がむつかしいです。うーん、メロディーが上がって下がって…その上がりきったところで使うケースが多い気がします。

ふつうのインディアンフルートの吹き方で説明しましたが、このメロディーの上がりきったところに装飾音を入れるとものすごく目立ちます。「閉じて開ける」方式の装飾音ならそれほど目立つことなく使うことができます。
» メロディーの上がりきったところに装飾音

アナサジフルートの吹き方、装飾音 4

北米先住民族の遺産。1400年前の古代の音色が現代によみがえる。
アナサジフルートの音を口の中に逆流させて鯨の鳴き声のような音を出します。

アナサジフルートの鯨音

鯨が歌うことを知っていますか。大海に響くような低い声から、あの巨体から想像できない高い声まで使って悠々と歌います。そんなイメージの音です。
(私は修行中なのできれいに鳴らせませんが…)
» アナサジフルートの鯨音

原理

すべての音は倍音を含んでいます。アナサジフルートでドの音を吹いているとき、一緒にレ、ミ、ソ、…の音もかすかに鳴っています。これが倍音です。鯨音は、アナサジフルートの音を口の中に逆流させ特定の倍音を増幅して鳴らします。モンゴルのホーミーとか口琴とかご存じでしたら、それらと同類です。 » 倍音について

口笛を吹けばいい

おそらく気がついていると思いますが。アナサジフルートを吹いているときにチュルチュルとノイズのような高い音がまざって聞こえるでしょう。あれをわざと大きく鳴らすと鯨音になります。

やり方は、口笛を吹ける人なら指穴をぜんぶふさいで、いちばん低い音を鳴らしながら口笛を吹けばいい。いや本当に口笛を吹いてはダメで、この手加減が微妙です。

鯨音は口笛の音なのか?違います、別物です。

  • 鯨音はアナサジフルートを口から外すと聞こえなくなります。口笛なら関係なく鳴り続けるでしょう。
  • 鯨音はドーソードーミーのように特定の音程しか鳴らせません。これはアナサジフルートの音に含まれている倍音を増幅して鳴らしているからです。倍音にない音は鳴らせません。口笛ならどんな音程でも鳴らせるはずです。

口笛を吹けない人は…

  1. 舌先を下の歯の裏側に付けます
  2. 舌と上の歯茎の間に、小さなブドウ玉をはさんだくらいの空間をあけます
  3. アナサジフルートを吹きながら、音が口の中に逆流しやすいように、唇をいつもよりほんの少しだけ開きます
  4. あとは口の中をもぐもぐ動かして、倍音が鳴る位置を探してください

ステージ向きの一発芸

鯨音はそのまま聴いてもあんまりぱっとしません。マイクで拾ってエコーをかけると強烈な音になります。だからステージ向きの技です。

注意 !!

慣れないうちに鯨音を練習するとふつうに音を出すのが下手になります。私は下手になりました。自己責任で練習してください。特殊効果的な使い方しかできませんから、できなくてもなにも困りません。

古代アナサジフルートで吹くおぼろ月夜

おぼろ月夜の説明は必要ですか。「菜の花畠に入り日薄れ…」からはじまる文部省唱歌です。作詞家の高野辰之と作曲家の岡野貞一が大正三年に発表して以来、この日本の田園風景をつづった美しい曲は今日までずっと歌い継がれてきました。

このおぼろ月夜を古代アナサジフルートで吹いてみました。

» アナサジフルートで吹いたおぼろ月夜

…似合う、似合いすぎるっ。尺八によく似た音色が日本叙情を見事に表現しているじゃないですか。アナサジフルートにはファの音が無いので二カ所ごまかして吹いているとか、そんなことまったく問題ありません。

古代アナサジフルート(ココペリの笛)

Kokopelli-080401.jpg

アナサジフルートはアリゾナのアナサジ洞窟遺跡から出土した1400年前の笛です。同時期の壁画に描かれた笛を吹く男―ココペリ―の吹いている笛だとされています。ココペリは北米の古い古い精霊で、笛を吹いて春を呼び雨を降らせ、山野に緑を芽吹かせると伝えられています。

まあそういう意味では、おぼろ月夜はぴったりかも。

アナサジフルートの演奏デモをいただきました

お店で販売するアナサジフルートを探していたときのご縁で Lawrence Huff さんという千葉県在住の方と知り合いになりました。(彼はアナサジフルートを製作する工房の、その友人です。)ローレンスさんは以前から尺八をされていて、最近アナサジフルートを始めたのだそうです。
» ローレンスさんのアナサジフルート演奏デモ(2分41秒)

この力強くも憂鬱な音色は下から3番目の音によるものです。下から3番目の音は五音階に乗らない音なので通常は使いません。それをわざと多用して重苦しい雰囲気の演奏に仕上げています。