-- 魅せる、聴かせる --

やわらかな音で吹く

インディアンフルートの音がなんだか一本調子な感じがする。カタい。電子ピアノの『フルート』の音みたい。機械的で生き生きした音に聞こえない。なんで?

―笛はそう聞こえるように吹く―
これがおそらく初歩であり最終奥義です。(プロの友人も似たことを言っていましたから。)笛を強く吹くと大きな音がします。そっと吹くと小さな音がします。息を強くしたり弱くしたりすると、それにつれて音も大きくなったり小さくなったりします。笛にできることはこれだけです、これしかありません。「やわらかい音に聞こえる」「生き生きした音に聞こえる」というのはとどのつまり「やわらかい音に聞こえるようにわざと吹いている」「生き生きした音に聞こえるようにわざと吹いている」という、身もフタもないタネあかしです。

インディアンフルートをいきなりを吹きはじめていきなり吹きおわると、「いきなり吹きはじめていきなり吹きおわったような音」になります。注意しながらふぅう…と吹きはじめてすぅー…と息を小さくしていくと、音もすぅー…と小さくなって消えていきます。試しに最初にプーッと吹いて、次に注意しながら吹いてみました。
» プーッと吹いたり、フウウゥゥ…と吹いたり

波形を表示してみると違いがはっきりわかります。プーッと吹いた音は形からしてレンガのようで堅そうです。

音の終わりだけでも、すぅー…と息の強さをコントロールするようにするとぜんぜん違います。特に長くのばす音は細心の注意で音をしぼって消すときれいに聞こえます。

逆に「カタい音に聞こえるように」わざとプーッと吹くのものありです。うまく決まると無表情な孤高の雰囲気になります。

音のまんなかをふくらませる

人間はなにをするにも立ちあがりに時間がかかり最後はどうしても尻すぼみになります。インディアンフルートもそのように吹いてあげると人間の耳には自然に聞こえます。

たとえば走るとき「ターン!」とスタートしてもいきなりフルスピードは出ません。70%くらいの力で助走してそれからすぐに調子づいてフルスピードになります。でも最後までは続かない、息切れしてどうしても尻すぼみになります。人間の行動はなんでもたいていそんなです。70%くらいからはじめて、そこからすぐに100%に上げて、しばらく続くけれど次第に衰えていく。人間にかぎらず自然現象にはそんな動きをするものがたくさんあります。だから人間はそういうのが自然だふつうだ、まっすぐだと思っている。そこにいきなりプーッとMAXで吹きはじめてプツンと吹き終わるような音を聞かされると強い違和感を感じるわけです。

インディアンフルートの音も、最初は70%くらいの大きさから吹きはじめて、そこからよっこらしょと100%まで大きくして、あとは少しずつ小さくしていきます。わざとそのように吹いてやると、不思議にそれが自然にまっすぐに聞こえます。長くのばす音は特にそうです。

» 長くのばす音をだんだん大きく吹いてだんだん小さく吹く

いつもいつもそうしているとさすがにヘンですが、ぜひ試してみてください。

音をつなげて吹く、区切って吹く

インディアンフルートを「ぷーーー」と吹きながら指を動かすと音がずるずるつながって聞こえます。息を「ぷ、ぷ、ぷー」と切りながら指を動かすと今度は一つ一つの音がくっきり分かれて聞こえます。

音をつなげて吹く、音を区切って吹く。どちらか一方だけでは大したことないのですが、この二つの吹き方をまぜると―メロディーのある部分はつなげてある部分は区切って吹く―と、いつもの曲がとたんに生き生き聞こえてきます。メロディーのどこをつなげてどこを区切るか、やり方によって曲のニュアンスがどんどん変わります。
» 同じメロディーをいろいろつなげたり区切ったりして吹いてみた

どこをつなげてどこを区切ればカッコイイいいのか?
それこそ演奏者の個性の問題で、ただ一つの正解といったものはないのでしょう。いつもとちがう吹き方で吹いてみるなど、いろいろやってみるとなにか発見があるかもしれません。
お手持ちのCDも大いに参考なるはずです。

いろいろな音の区切り方

音の区切り方にはいろいろあります。音の区切り方によってインディアンフルートの音の雰囲気がかなり変わってきます。
音の区切り方には大きく3とおりあります。

フーッと吹く

「ふっ、ふっ、ふーっ」です。唇と舌は動かしません。肺の中の空気をそのままふーっと吹きだします。立ちあがりのはっきりしないぼんやりした音になります。一番やわらかい音になります。速いフレーズは吹けません。

プーッと吹く

「ぷ、ぷ、ぷーっ」です。舌は動かしません。唇で息を区切ります。やわらかいですが輪郭のはっきりした音になります。そこそこ速いフレーズも吹けます。

ルーッと吹く

「るるるる、るーっ」です。唇は開けたまま。ふーっと息を吹きながら舌で「ふるるるる」と息を区切ります。立ち上がりのはっきりした硬い音になります。非常に速いフレーズを吹くことができます。

» 最初にフフフ、次にプププ、最後にルルルで吹く

2つの演奏スタイル

一番やわらかな「フーッ」は音が遅いので、これで曲を吹くことは難しいです。だから「プププ」か「ルルル」を主に使って吹くことになります。

「プププ」を主に使うスタイル
ぜんたい的におっとりした雰囲気になります。私はこの吹き方が好きです。曲の節目や長い音は「フー」で吹きはじめて、他は「プププ」で吹きます。速いフレーズはさすがに吹けないので、そこだけ「ルルル」を使います。…そもそもそんなに速い曲を吹かないのです。
「ルルル」を主に使うスタイル
ぜんたい的にかちっとした雰囲気になります。「ルルル」というのは西洋でいう”タンギング”です。このタンギングをきっちりやると西洋のリコーダのような硬質な音になります。

自分はこんな音が好きだ、というのが決まると上達も早いはず。

音を失速させる

インディアンフルートの音をだんだん小さくしながら同時に指穴をゆっくりふさぐと、音程がふにゃーっとさがります。音程がさがっているのですが、私にはなんだか失速して空から落ちているように聞こえます。高いラの音でやると鳥や獣が鳴いているようにも聞こえます。
» 高いラの音で失速

音を下げて終わるところで失速させる

「…レ・ド・ラー」のように音を下げて終わるところで失速させると、曲全体がふにゃーっとやわらかく着地してくれます。「…レ・ド・ラー」ならレの音を失速させるかドの音を失速させるか。逆に最後のラの音はこれで終わりだぞと、強めに吹いたり装飾音を入れたりビブラートをかけたりすると引き締まります。
» ミーレードーラーの レ の音のところで失速
» ミーレードーラーの ド の音のところで失速

ミレドの装飾音

インディアンフルートの装飾音について一般的な説明しました。それとは別に「こんなときはこう」のような、特別の決め技みたいな装飾音があります。

「ドー」とのばすときに「ミレドー」と吹くのを聴いたことがあります。ジョセフ・ファイヤークロウと、ブライアン・アキパも同じことをしていました。二人の演奏をマネしているうちに私もクセになりました。「ミレド、ミレドー」のようにしつこくくりかえすこともあります。
» 「ドー」とのばすときに「ミレドー」と装飾する

この装飾音はドの音以外ではあまり聞いた覚えがありません。たとえば同じように「ラー」とのばすときに「レドラ、レドラー」とやってもよさそうなのですが…たぶん他の音でやってもビシッと決まらないのだと思います。

音をずりあげる

インディアンフルートの音を出しながら指穴をゆっくりあけると音程がにょろーっとずりあがります。
» 音をずりあげる

指穴をゆっくりあける方法はいろいろあります。とにかく、あければいいのです。

  • 穴を押さえている指を横にスライドしてあける
  • 指を横に倒すようにひねってあける
  • 指をまっすぐにしてシーソーのように跳ねあげてあける

この装飾音は演奏者によってはっきり好き嫌いが別れると思います。使う人は使う、使わない人は使わない。私は使いません。音をずりあげるとインディアンフルートっぽく聞こえない気がして。欧米人がずりあげると、なんだかヨーロッパの笛―アイリッシュフルートなど―のように聞こえます。私自身がずりあげると、なんだか日本の笛のようになります。その人の民族性に引っぱられてしまうようです。

逆手にとってインディアンフルートをまるでアイリッシュフルートのように吹く人もいますが…私は、アイリッシュを演奏したければ素直にアイリッシュフルートを吹けばいい、と思います。
「インディアンフルートでも吹ける」ではなくて「インディアンフルートだから吹ける」という姿勢です。

インディアンフルートのマネをして吹け

「とにかくインディアンフルートの音が好き。」という人であればなんの苦労もないのですが。本物のインディアンが吹くように吹きたい、コロラドの赤い渓谷やヨセミテの原生林が目に浮かぶような演奏をしたいと願うなら、それなりの苦労を伴います。

インディアンフルートらしく吹くコツはなんでしょうか。
それはずばり「インディアンフルートのマネをして吹く」ことです。

たとえば友だちが遊びに来てインディアンフルートの話になって、「インディアンフルートってどんな感じなの?」と興味津々あなたに尋ねたとします。あなたはソファに転がしているインディアンフルートを掴みました。

さてあなたは今、インディアンフルート演奏者の全世界代表として友だちの前にいます。今からのあなたの演奏を聴いて友だちは「ああインディアンフルートってこんななんだ」と理解するでしょう。インディアンフルートとはこんなだと友だちに正確に理解してもらうために、あなたは思いつくかぎりいちばんインディアンフルートらしく吹いてみせなくてはなりません。

あなたの今までの知識―CDやコンサート、YouTubeの動画など―を総動員して、少しでも本物っぽくそれらしく吹こうとするはずです。
これです、まさにこれですっ。これがインディアンフルートらしく吹く、ということです。