-- 切れ目なく吹く --

プロのような余裕ある演奏をするために

CDを聴くとやっぱりプロの演奏はきれいだなと思います。テクニックがどうだということもあるでしょうが、プロの演奏には余裕があります。長いフレーズをろうろうと吹きます。私がこれをマネしようとしてもまず息がもちません、途中で「ぷーぷぷ、ぷ。」と息切れしてしまいます。プロの演奏は総じて一息が長いです。だから演奏に余裕ができます。たしかに上手な人ほど少ない息でムダなく吹きますが、それでも管楽器を演奏するなら肺活量は多い方がいいに決まっています。

インディアンフルートのために肺を鍛えるべし

余裕のある演奏をするために…

  • 肺活量が多いこと
  • ぱっと一瞬でたくさんの空気を吸いこめること

肺を鍛えるには水泳がいいという話を聞きました。なるほどと思いました。そういえば水泳は健康にもいいそうですよ、むしろ世間ではそちらが主でしょうか。でも私は運動がきらいなので、水泳はどうにも気がすすみません…(ダイエットのために泳げと両親から言われました。)

口から吐いて鼻から吸え

いろいろな楽器で遊んでいると悪知恵だけは働くようになります。ちょっとやってみましょうか。(私もまだ修行中ですが。)
» 切れ目なくインディアンフルートを吹く(1分55秒)

「つまんない演奏…」だとか「インディアンフルートに聞こえないっ」とかいろいろあるでしょうが。音がまったくとぎれないことにご注目ください。もちろん一息で吹けるわけもなく、何度も息つぎしています。口から息を吐きながら同時に鼻から吸っているので、音がとぎれないのです。

この「口から息を吐きながら同時に鼻から吸う」という奇天烈な呼吸法を「循環呼吸」といいます。

意外に知られている循環呼吸

管楽器は息で吹いて鳴らしますから息切れすれば演奏も途切れます。切れ目なく演奏するには?口から息を吐きながら同時に鼻から吸う循環呼吸を使えば、息を吸っている間も管楽器を鳴らしつづけることができます。循環呼吸は意外に広く知られていて、ユーラシア大陸のあちこちで見かけます。

  • バリ島のスリン
  • パキスタンのアルゴザ
  • インドの蛇つかいの笛

パキスタンのアルゴザ

二本組の細長いたて笛です。一本は指穴がなくていつも同じ音を鳴らします。(ドローン管といいます。)もう一本にはふつうに指穴があってメロディーを演奏します。二本いっしょに吹くと独りで合奏ができます。
» パキスタンのアルゴザの音

ドローン管の音がまったく途切れないのに注意。メロディー管の音が途切れているのはたぶん、舌先で吹口に栓をしているんだと思います。

インドの蛇つかいの笛

プーンギーというそうです。ぽっこりしたあの形はひょろ長いヒョウタンでできているから。これもドローン管とメロディー管があって二つの音を同時に鳴らします。やっぱりドローン管の音が途切れません。
» インドの蛇つかいの笛の音

オーストラリアのディジュリドゥ

オーストラリア・アボリジニの大きな木管ラッパ。なぜか日本でよく見かける循環呼吸楽器です。びょ~~と途切れることなく鳴りつづけます。オダギリジョーの主演した映画「蟲師」の冒頭で使われました。
» オーストラリアのディジュリドゥの音

インディアンフルートは循環呼吸しやすい笛

もちろんインディアンフルートは循環呼吸する楽器ではありません。一曲の中で何回息つぎしてもいいし、音が途切れても問題ありません。インディアンフルートで循環呼吸する意義は、演奏をゆったりと余裕あるように聞きかせることにあります。

プロの演奏は総じて一息が長いと書きました。そんな曲をアマチュアがマネして演奏するところを想像してみてください。自分もプロのようにと長いフレーズを息継ぎなしに吹こうとする。終わりのほうは肺に残ったわずかな息をしぼるために必死。いかにも苦しそうな表情。のばす音はぷるぷると今にも消えそう……間一髪なんとか吹ききった、やったあっ!!プッ、ハアーッと水面から顔を出したみたいに盛大な息つぎ――これでは興ざめです、いかにも素人っぽいでしょう。

息苦しそうに笛を吹くと素人っぽく見えます。プロはすまして余裕しゃくしゃくのように演奏します。これはきちんと肺と腹筋を鍛えているからできるんですが、そして笛を吹く者としてはきちんと肺と腹筋を鍛えるのがスジなんですが。

循環呼吸ができれば素人でもある程度ごまかせます。
笛の中でもインディアンフルートは循環呼吸しやすい笛です。音の高さが安定している、バックプレッシャーが強いなど、理由はいくつかあります。梅雨時期はバックプレッシャーが特に強くなるので循環呼吸を練習するのにもってこいの季節です。べつに必須ではないけれど、他の笛よりも簡単にマスターできるんだからせっかくだからマスターしたら、という話です。

丸々一曲を循環呼吸で吹く必要はありません。長いフレーズの終わりのあと数秒っ、というところでほんの少し、呼吸をごまかせればいいんです。

口の中の空気を押しだしている間に鼻から吸う

口から息を吐きながら鼻から吸うというのは、種明かしすればたいしたことではありません。子どものころプールや風呂場で口いっぱいに水を含んで、水鉄砲のようにぴゅーっと吹きだしたことがあるでしょう。(今考えると汚いな。)あれがもし水ではなくて空気で、しかも笛をくわえていたらどうでしょうか。一瞬「ぴょ」と鳴るはずです。その瞬間に鼻から息を吸いこみます。

循環呼吸のようすをゆっくり説明すると次のようになります。

  1. 笛をふつうにふーっと吹いている状態からはじめます。
  2. 前準備として、笛をふーっと吹きながら口の中を広げて空気をためていきます。
  3. 循環呼吸を開始します。まず口の中にためた空気を押しだしはじめます。
  4. 直後に息を吐くのをやめます。やめても口の中の空気を押しだしているので、笛は鳴りつづけます。
  5. 鼻からいそいで息を吸います。口の中の空気を押しだしているので笛は鳴っていますが…空気は残りわずか。
  6. 吸いこんだばかりの息を口から吐きだしはじめます。間一髪でつながりました。笛は鳴りつづけたままでした。

理屈ではたしかに途切れることなく笛を吹けそうですね。そして実際に途切れることなく笛を吹くことができます。循環呼吸というのは結局これだけのことで、あとは教えることも教わることもそんなにありません。この呼吸法の難しさは「今までやったことのない不自然な呼吸を身につける」という単純明快なところにあります。

これはもう自分の身体に覚えこませるしかない。自分が練習するしかないという話です。

口いっぱいに空気をためる練習

最初に口いっぱいに空気をためる感覚を実感するといいと思いますが、空気だとまだ分かりにくいので、水でやってみましょうか。

  1. 口いっぱいに水を含んでください。舌は奥に引っこんで顎はさがって、ほっぺたがふくらんでいるはずです。
  2. 息を止めてください。
  3. 息を止めたまま口の中の水をぴゅーっと押しだしてみてください。舌を前に押しだして、顎をかみしめて、ほっぺたをすぼませます。

息を吐いて口の中の空気を押しだしてはいけません!!
息は止めたまま、舌や顎やほっぺたを使って口の中の空気を押しだします。

どうでしょう。口いっぱいに水を含んだときの感じをよく覚えておいてください。本番ではこれが水ではなくて空気になります。

注意)
早まって口に水を入れたまま息を吸う練習をしないこと。まちがって水を吸いこむと大変です。

息を吐きながらもぐもぐする

口いっぱいに空気をためる感覚を覚えたら、次の練習に進みましょうか。

  1. コップでも洗面器でもお風呂でもいいから水をためる。
  2. ストローをくわえて先を水につける。
  3. そのまま息を吐く。ぶくぶくとストローの先から泡が出るはず。
  4. 息を吐きながら同時に口をもぐもぐさせる。口いっぱいに空気をためて押しだすのをくりかえす。息は吐きつづけたままです。
  5. もぐ、もぐ、もぐ、とやりながら1,2,3。 1,2,3。 の3でぴたっと息を止めます。
    息を止めても口の中の空気を押しだしているのでぶくぶくは止まらないはず。
  6. 1,2,3。 1,2,3。 と連続してやってみる。

息を止めるかわりに鼻から吸いこむことができれば循環呼吸の完成です。

口の中の空気を押しだしながら鼻から吸う

口の中の空気を押しだしながら息を止める練習をしました。次が山場、口の中の空気を押しだしながら鼻から息を吸います。

  1. ストローをくわえて先を水につけぶくぶくと息を吐く。
  2. 息を吐きながら口をもぐもぐさせる。
  3. 口をもぐ、もぐ、もぐ、とやりながら1,2,3。 1,2,3。 の3で鼻から息を吸う。

タイミングとしては、まず口の中の空気を押しだしはじめるのが先行して、コンマ秒遅れて鼻から息を吸いこみます。余裕はありません、一瞬、最初はほんの少しだけ息を吸いこみます。

そして(ここが本当の山場です)口の中の空気がなくなる前に吸いこんだばかりの息を吐きはじめます。

口から息を吐きつづけることに一番集中してください。鼻から吸いこむのは意外にすぐにできるはず。最後まで難しいのは口の中の空気がなくなる前に息の吐きだしを再開することです。

コツがどうとかなくて、身体に覚えこませるしかないです。

  1. ストローを短く切って先をつぶします。
  2. これを四六時中くわえて循環呼吸の練習をします。
  3. テレビを見ながら、音楽を聴きながら、パソコンをしながら、とにかく感覚がつかめるまで練習します。

ストローの先をつぶしておくと空気がつっかえるので循環呼吸を練習しやすいです。(これをバックプレッシャーと言うのだと、ディジュリドゥの教室で教わりました。)

ほんとうに循環呼吸してみる

循環呼吸の感覚をつかめたらストローは不要です(かえってヘンなクセがつきます。)インディアンフルートで実際に循環呼吸をしてみましょう。

難しさは先をつぶしたストローの比ではないはず。一瞬で口の中の空気が空になります。できるだけ空気をほおばって、ばふっと押しだしながらすっと息を吸います。直後に息を吐きはじめないと音が途切れてしまいます。

ただ、
本番はここまで要求されません。インドの蛇つかいの笛のように音が途切れたとたんヘビが噛みついてくるわけでもない。長いフレーズを吹いていて息が続かなくなりそうなとき、一瞬ごまかせればよい。そうでしたよね。

ごまかせればいいのでした。

静かに息つぎをするのが目的

インディアンフルートはもともと循環呼吸をしない笛です。だから失敗して音が途切れてもドンマイです。息つぎを静かにすると余裕のある優雅な演奏に聞こえる。だから息つぎが静かで目立たなくなるなら、循環呼吸を失敗して多少音が途切れてもOKなのです。

いろいろごまかしながら循環呼吸する

たとえば音をまっすぐ伸ばして聴かせているときに循環呼吸をするとモロバレです。音と音の間、装飾音、ビブラートなど、なにかするときに紛れて循環呼吸すれば素人技でも十分実用になります。「そんな忙しいときに循環呼吸までするの?」と思うかもしれませんが、なじんでくるとかえってそれが循環呼吸開始の合図になってくれたりします。
» 循環呼吸しながらインディアンフルートを吹いてみた

自由自在に循環呼吸できる必要はありません。一つの曲でいえば、息が苦しくなる場面は決まっているはずです。「循環呼吸はここでする」と決めてしまって練習すればいいです。