-- ダブルフルート --

ダブルフルートの吹き方 はじめに

» ダブルフルートを吹いてみた

このすこし変わった形のインディアンフルートはダブルフルートと言います。
2本のインディアンフルートを1本に束ねた笛で、同時に2つの音が出ます。1人で合奏ができます。ここではこのダブルフルートという、一風変わったインディアンフルートの吹き方を説明します。

ふつうのインディアンフルートが吹ける人むき

とうぜんですがふつうのインディアンフルートが吹けないと吹けませんこれ。
インディアンフルートがはじめてだという人は、ほんとうはダブルフルートを手にする前にふつうのインディアンフルートを持っているのがよいです。ダブルフルートでふつうのインディアンフルートを学ぶのはちょっとしんどい。ダブルフルートの片側の管だけを吹けばふつのインディアンフルートとして使えますが、やっぱりやりにくいです。

ダブルフルートの吹き方 はじめに2

インディアンフルートは古くて新しい楽器

絶滅寸前だったインディアンフルートが北アメリカでリバイバルしたのは20世紀のほんとうに終わりごろです。指穴が5つだとか6つだとかマイナー五音階だとか、今のインディアンフルートの形は、それから10数年の間にばたばた決まったことです。だからインディアンフルートは生まれかわった新しい楽器ともいえるでしょう。誰でも鳴らせる、フィーリングで吹いても曲に聞こえるインディアンフルートは、北アメリカインディアンの哲学・ライフスタイルとともに全世界に広まりました。

アステカの土笛をヒントに

2本のインディアンフルートを束ねていっしょに吹くこと、ドローンフルートを誰が最初に発明したのかわかりません。中央アメリカのアステカ・マヤの遺品―2つの音が出る土笛―をヒントにした、というのがおおかたの定説です。

ドローフルートを実際に手にとってみて実感するのは、これを製作するには高度な西洋の工作機械が必要だということです。21世紀の工業国USAだから生産可能な笛であって、北アメリカインディアンのネイティブな技術ではとても作れない。そんな代物をインディアンフルートと呼んでいいのか、という議論はありますが、吹いてみるとこれがなんともインディアンな音がします。

インディアンフルートが趣味の人なら「一本くらい持っておきたいな」とあこがれる笛です。

ドローンからダブルへ

通常のドローフルートでは伴奏管に指穴がありません。伴奏管はいつも同じ低音―ドローン―を鳴らします。演奏方法はふつうのインディアンフルートとまったく同じで、簡単に一人合奏が楽しめるので、これはこれで人気です。

しかし同じ音ばかりでは変わり映えがない、もっといろんな和音の組みあわせを楽しみたいと、伴奏管にも指穴をあけたタイプが考案されました。この伴奏管に指穴をあけたタイプを区別して、当サイトでは”ダブルフルート”と呼んでいます。

  • ドローンフルート…伴奏管に指穴がない。いつも同じ音を鳴らす。
  • ダブルフルート…伴奏管に1つ以上の指穴がある。伴奏の音を変えることができる。

伴奏管の指穴位置はまだスタンダードがなく、いろいろな工房で試行錯誤の途中です。ここで説明しているダブルフルートは、伴奏管に3つの指穴が開いているタイプです。

» ダブルフルートを吹いてみた

ダブルフルートの吹き方 各部の名称

ここではダブルフルートの各部を次のように呼んでいます。

ダブルフルートの吹き方 唇の当て方・鳴らし方

インディアンフルートは小学校のリコーダーと同じで吹けば鳴ります。
といっても「なるほどそうか、がぶっ」とくわえるほど吹口は小さくありません。唇をかるく開けて、吹口にぶちゅっとキスする感じに押しあてます。
あとはそのままふーっと吹けば鳴ります。

ふーっとお茶を吹き冷ますかんじ

インディアンフルートはそんなに大きな音がしません。だから力いっぱい息を吹きこんでもヘンな音が出るだけです。熱いお茶をふーっと吹き冷ますかんじで大丈夫です。特に低い音ほどそっと吹いて鳴らします。

ってもダブルフルートの2管を同時に吹くときはそんなこと言ってられなくて、ぶぉーっと息を吹きこみます。

大きな音を出したほうが

想像つくと思いますが、ダブルフルートはふつうのフルートの2本分の息を消費します。だから基本的に息が長持ちしません。ひんぱんに息継ぎすることになるので、それをどうこなすかというのが問題になります。このへんは私も試行錯誤しています。

なぜだか、大きな音を出すと息が長く続く気がします。
大きな音を出すためによりたくさん息を吹きこんでいるはずなのですが、息をケチって小さな音で演奏するよりもかえって長持ちする気がします。
私がそう思って吹くからそうなのかもしれません。ちょっと試してみてください。

ダブルフルートの吹き方 演奏スタイル1

ダブルフルートは2本のインディアンフルートを1つに束ねた笛です。だからといって必ず一人合奏しなければならないということもないはずです。

3つの演奏スタイル

ふつうのインディアンフルートとして吹く
ダブルフルートのメロディー管だけを吹けば、ふつうのインディアンフルートと同じです。そんなことをしてどうする?そうですね、たとえば曲の一番目を1本のインディアンフルートで吹いて、二番目から一人合奏してみせるとか。そんな演出が考えられます。
ドローンフルートとして吹く
ダブルフルートの伴奏管の指穴をコルク栓でふさぎます。こうするとドローンフルートとして使えます。メロディー管と伴奏管の両方を吹きますが、演奏はメロディー管に専念します。特別な練習もなしにかんたんに一人合奏できます。また両手でメロディー管を演奏するので表情豊かな演奏ができます。
演奏中に伴奏管の音がじゃまな局面が出てくることがあり、そこをうまく”ごまかす”必要が出てきます。
ダブルフルートとして吹く
左手でメロディー管を操作して、右手で伴奏管を操作します。多彩な和音を楽しめます。かなり自由度が低くなるので”ごまかす”技術が必須になります。それでもワンパターンになりがちで、こればかり吹いていると「なんだかさっきから同じことばかりやってる」というふうに聞こえるでしょう。

ステージではぜんぶのスタイルを

ダブルフルートの3つの演奏スタイルはどれも一長一短あるというか。だから特に人前で演奏するときは、ぜんぶの演奏スタイルを使うとよいです。
ふつうのインディアンフルートとして吹いて自由で表情豊かな演奏を印象づけて、ダブルフルートとして吹いて多彩な和音を印象づけます。

ほんとうは「表情豊かに吹くためには和音が使えない」「和音を使うと自由にメロディーが吹けない」というダブルフルートなのですが、観客は「表情豊かに自由自在に和音を奏でるすごい笛」とごっちゃに評価してくれます。

…あんまり期待されても困るのでダブルフルートの限界をいろいろ言ってますけど。
最初に聴いたときのインパクトは強烈なので、1本持っておくとステージで重宝するはず。

ダブルフルートの吹き方 演奏スタイル2

ふつうのインディアンフルートとして吹く

ダブルフルートのメロディー管だけ吹けばふつうのインディアンフルートとして使えます。ダブルフルートのインパクトは強烈なのですが、さすがにそればかりだと耳が飽きます。だからたとえば曲の一番目は1本で吹いて、二番目から一人合奏してみせるなどの演出が考えられます。
» ダブルフルートのメロディー管だけ吹いてみた

”ごまかす”技術のひとつ

ダブルフルートはふつうのインディアンフルートとして吹いているときが、いちばん自由自在に表情豊かに演奏できます。これは”ごまかす”技術のひとつです。最初にふつうのインディアンフルートとして吹いて、どんなメロディーなのか客に分からせておく。そのあとで一人合奏すると、和音として汚い音を一つ省いて吹いたりしても、客はなんとなくふんふんと聴いてくれるでしょう。

いまいち吹きにくい

ダブルフルートをふつうのインディアンフルートとして吹くには、よぶんな物―伴奏管―がくっついていますから、吹きにくいです。私は試聴サンプルをなんども録音し直しているうち、右手が痛くなってしまいました。だからふつうにインディアンフルートを吹きたいのであれば、ふつうのインディアンフルートを別に持っておくのが幸せになれると思います。

ダブルフルートの吹き方 ドローン奏法1

ダブルフルートの伴奏管の指穴をぜんぶコルク栓でふさぐとドローンフルートになります。伴奏管は同じ音しか鳴りません。両手でメロディー管を演奏することに専念します。メロディー管と伴奏管をいっしょに吹くと原始的な和音が響きます。

ドローンフルートの演奏方法はふつうのインディアンフルートとまったく同じです。吹くときに伴奏管もいっしょに吹くという、それだけの違いです。ふつうに演奏して一人合奏できるなんて、重宝な笛があったものです。伴奏管はいつも同じ音しか鳴りませんが、それがいっそインディアンらしい雰囲気に聞こえたりします。

ラの音のドローン

伴奏管の3つの指穴をぜんぶふさぐと、伴奏管はラの音になります。ラの音を伴奏にメロディー管を演奏すると落ち着いた…いくぶん暗い雰囲気の合奏になります。
» ラの音を伴奏にラドレミソラ

ラ、ド、レ、ミがきれいにハモる

伴奏管がラの音の場合、メロディー管のラ、ド、レ、ミの音がきれいにハモります。
これらの音を積極的に使うと一人合奏が映えるでしょう。ただしラの音は伴奏管の音と同じなので、吹いても2つの音に聞こえません。メロディーの中でラの音をはっきりと聞かせたいなら、伴奏管を止めてメロディー管だけで吹くなどの工夫が必要です。

ソの音はきれいにハモらない

ラとソの音はうまくハモりません。ラと3オクターブ上のソの音が倍音関係なので、お互いにピッチを厳密に調整すればハモるのでしょうが。フレーズの頭をソの音からはじめたり、ソの音を長くのばして吹くと強い緊張感が生まれます。それはそれで効果的に使えばよいとも言える。
できるだけラドレミを中心に吹いてサビの出だしでソの音をばーんと鳴らす、などするといいと思います。

ダブルフルートの吹き方 コールアンドレスポンス

【コールアンドレスポンス】
「コンサートなどで、演者が観客に掛け声を求め、それに対して観客が応えること。」
―はてなキーワード―

一人コールアンドレスポンスがおすすめ

ゴスペルでさいしょにリーダーが歌ってそれに応えて大勢が歌う、あのコールアンドレスポンスですけど。ダブルフルートの演奏でもコールアンドレスポンスするといいです。さいしょにメロディー管だけで1フレーズ吹いて、次に伴奏管といっしょに1フレーズ吹きます。そしてまたメロディー管だけ吹いて、それから伴奏管もいっしょに吹く。
» ダブルフルートでコールアンドレスポンス

たった一人でコールアンドレスポンス…
考えようによってはあまりに寂しい状況ですが、これが妙にハマって調子よく演奏できたりしますから、することがなくなったり行き詰まったときには試してみてください。

伴奏管を止めるための保険として

伴奏管がラの音のばあい、メロディー管のラは同じ音なので重なってよく聞こえませんし、ソの音はきれいにハモってくれません。だから曲の中でラとソの音はできるだけ使わない方がよいのですが、どうしても使いたい!という局面があるでしょう。そんなときは仕方がない。気にせずそのまま吹いてしまうか、じゃまな伴奏管を吹くのをやめてメロディー管だけ演奏することになります。

このとき、とつぜん曲の中で一カ所だけ、伴奏管を止めてしまうというのは、どうでしょうか。
「ありゃーここは伴奏をつけにくい箇所なんだな」と聞き手にモロバレです。でもさいしょからコールアンドレスポンス形式で吹いていれば、途中で伴奏管を止めても違和感なく受けとめてもらえるはずです。

コールアンドレスポンス形式でなくても、曲の出だしだけでも、伴奏管を止めてメロディー管だけで演奏する。これだけで「この曲はメロディー管だけで吹く箇所もありますからね、そういう演出ですからね」という了解が聞き手との間に生まれます。これでずいぶんごまかせます。
覚えておいて損はない技ですよ。

ダブルフルートの吹き方 ドローン奏法2

伴奏管の3つの指穴のうち、いちばん下をあけて上の2つをコルク栓でふさぐと、伴奏管はドの音になります。ドの音を伴奏にメロディー管を演奏すると明るい雰囲気の合奏になります。
» ドの音を伴奏にドレミソラ

伴奏管がラのときとぜんぜん違った雰囲気です。純粋なドローンフルートは伴奏管の音を変えられないのでそのうち飽きてきますが、このへん、伴奏管に指穴のあるタイプはいろいろ遊べます。

きれいにハモるのはドミソラ

伴奏管がドの音の場合、メロディー管のド、ミ、ソ、ラの音がきれいにハモります。
これらの音を積極的に使うと一人合奏が映えるでしょう。ただしドの音は伴奏管の音と同じなので、吹いても2つの音に聞こえません。メロディーの中でドの音をはっきりと聞かせたいなら、伴奏管を止めてメロディー管だけで吹くなどの工夫が必要です。

レの音はうまくハモりません。
できるだけドミソラを中心に吹いて、レの音はメロディーの途中経過にちらっと使うのが無難です。

ダブルフルートの吹き方 ダブル奏法1

ダブルフルートの伴奏管の指穴をコルク栓でふさぐとドローンフルートになります。ドローンフルートはかんたん手軽に一人合奏できるのが魅力です。でもせっかく伴奏管に指穴があるのですから、いろいろ伴奏管の音を変えながら演奏してみたいもの。

伴奏管のいちばん下の指穴だけ使う

伴奏管のいちばん下の指穴をあけて、上の2つの指穴をコルク栓でふさぎます。伴奏管のいちばん下の指穴だけ使うのです。そして右手と左手で下の図のように指穴を押さえます、分かりますか。

  • 伴奏管の指穴2つをコルク栓でふさいでしまう。
  • 左手はメロディー管の上の2つの指穴を押さえる。
  • 右手はメロディー管の2つの指穴と、伴奏管のいちばん下の指穴を押さえる。
  • メロディー管のいちばん下の指穴はあけたまま、使わない

そして運指はこうなります。
●…指穴をふさぐ ○…指穴をあける ※ グレイアウトは吹かない

» ダブルフルートの音階ラドレミソラ

※ いちばん下のラの音を出すには、伴奏管だけを吹きます。

2とおりの伴奏音が使える

まず伴奏管の指穴をふさいだままいろいろ吹いてみてください。しんみりした暗い雰囲気の一人合奏になります。つぎに伴奏管の指穴をあけて吹いてみてください。ぱあっと明るい雰囲気になります。同じフレーズを吹いても、伴奏管の指穴によってずいぶん違った雰囲気になります。
» 2とおりの伴奏音を使いながらダブルフルートを吹いてみた

最初はしんみりと始めて真ん中はぱあっと明るく、最後はまたしんみりで締めくくると、それだけで立派な曲に聞こえます。

ダブルフルートの吹き方 ダブル奏法2


1つの指穴で3とおりの伴奏音

ダブルフルートの伴奏管のいちばん下の指穴をふさぐ・あける、で2とおりの伴奏音が使えます。これだけでもずいぶん合奏ぽっくなります。実は、いちばん下の指穴をふさぐ・あける・半分だけあける、とやれば3とおりの伴奏音が使えます。

伴奏管のいちばん下の指穴をふさぐとラの音、あけるとドの音。では半分だけあけると?ラとドの間の音、シの音が出ます。だから指穴をあける・ふさぐ・半分だけあける、でラ・ド・シの3とおりの伴奏音が使えます。

シの伴奏にはレかソ

シの音の伴奏音にきれいにハモるのはレかソの音です。ソシレの和音って聞いたことありませんか。これは実際にはあまり使う場面がありません。曲の終わりごろ、レードーで終わったりレドラーで終わったりするときに間に入れます。
» 曲の終わりに伴奏音をラーララシーシードーー

曲の終わりにシの伴奏音をはさむと西洋っぽい雰囲気になります。インディアンフルートなのに。このへん好き嫌いが分かれるところでしょうし、指の操作のむつかしい伴奏音なので、できなくてもいいと思います。
とりあえず知識として押さえておくとよいでしょう。

ダブルフルートの吹き方 ダブル奏法 3

伴奏管の指穴をぜんぶ使う

ここまではダブルフルートの伴奏管の指穴にコルク栓を詰めて演奏してきましたが。
せっかく指穴が開いているのだから使いましょう。コルク栓をぜんぶ取ってしまいましょう。
※ 上から3番目の指穴を隠す革ストラップは付けたままです。

  • 伴奏管の3つの指穴を右手の人差指、中指、薬指で押さえます
  • メロディー管の上から3つの指穴を左手の人差指、中指、小指で押さえます

左手の小指は実際には上から4番目の指穴を押さえています。あんまりつらいときには小指をあきらめて、左手の人差し指、中指の2つだけ使います。でも1音でもたくさん出た方がいいですから、なんとかがんばってください。

両手の指をいっしょに動かす

このように伴奏管の指穴をすべて使うのがダブルフルートの本来の形なのですが。
はっきり言って手に負えない感じです。私自身、どうすればダブルフルートの魅力を余すことなく引きだせるのか分かりません。

とりあえず両手の指を揃えていっしょに開け閉めしながら吹いてみてください。
いちばん原始的な合奏です。ときどき片方の指の動きをとめてもう片方の指だけ動かしたり、片方の管だけ吹いて一つの音だけで演奏したり。そんな感じになると思っているのですが。
» 両手の指をいっしょに動かして吹いてみた

ダブルフルートの説明はここまで

ダブルフルートの吹き方の説明はここまでです。伴奏管のぜんぶの指穴を使う演奏法について、もうすこし説明できるといいのですが……

そもそもダブルフルートは扱いにくい、制限の多い笛です。
どこまで極めても、それほど自由に演奏できません。だから、いつもはふつうのインディアンフルートを吹いていて、ときどきダブルフルートを吹いて遊ぶ。そんな付きあい方がいちばん似合っている気がしますよ。
ではではまたいつか。