-- インディアンフルートについて --

インディアンフルートについて

北アメリカインディアンの笛

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インディアンフルートは北アメリカインディアンに伝わる縦笛です。
人によっては「ネイティブ・アメリカン・フルート」と呼んだり、あるいはインディアンの若者が女性にプロポーズするとき歌を捧げるので「ラブフルート」とロマンチックに呼んだりします。

だれでもすぐに吹ける

インディアンフルートは笛のなかでも特にやさしい部類です。
とうぜんです。愛しい彼女が振りむいてくれるかどうか、この一曲にかかっているわけですから。はじめて手にとって吹いて、なんとなくさまになって聞こえるように。インディアンフルートはそんな切なる期待に何百年も応えてきました。

インディアンフルートには吹口のところに空気室という空間があります。これがエアクッションのように働いて息の乱れを(わずかですが)整えてくれます。つまり演奏者があまり上手でなくても、笛のほうできれいに鳴ってくれます。

インディアンフルートの音階はマイナー五音階(ラドレミソラド)です。これは適当に指を動かしても曲らしく聞こえるという便利な音階です。

笛を吹いたことがない人にこそ

インディアンフルートは笛を吹いたことがない人のための笛です。
はじめての人が適当に吹いてもそれらしく曲になって聞こえるように進化してきました。逆にふつうの楽譜に書かれたような曲の演奏はむつかしい。音域が1オクターブ+1音しかないので、そもそも音数の足りない曲が出てきます。

インディアンフルートは笛の初心者にお勧めです。楽譜にとらわれず自由に吹いて楽しみながら、指の動かし方や抑揚のつけかたなど、笛全般の基礎を身につけることができます。

いろいろなインディアンフルート その1

北アメリカにはたくさんのインディアンフルート工房があって、ほんとうにいろんなインディアンフルートが作られています。いくつかのインディアンフルートについて解説します。

竹のフルート、5穴

» 竹のインディアンフルートを吹いてみた

竹で作られたインディアンフルートです。
表面に焼きいれで装飾を施しています。インディアンフルートにはこのように美しく飾りたてたものが数多くあります。バードの形は…あまり意味はなさそうです。しっかりと本体にくくりつけてあって取りはずすことができません。

インディアンフルートの指穴は5つあるいは6つで、これは5つです。5つ穴の方が簡単です。下から順に指穴をあけていくだけでインディアンフルートの伝統的な音階―ラドレミソラド―を吹くことができます。間違いようがない。そのかわりふつうのドレミファソラシド曲を吹くのはむつかしいです。初心者向きだが応用が利かない、といったところでしょうか。

このフルートは素材のせいか管が細いためか、少しきつい音がします。製作はフロリダ州のエリック・ザ・フルートメーカ工房。フロリダ州はほとんど沖縄県と同緯度で、竹がジャングルになっています。このような地方では竹のインディアンフルートが作られます。そもそも木より竹のほうがだんぜん楽にフルートを作ることができます。

アカスギのフルート、6穴

» アカスギのインディアンフルートを吹いてみた

アカスギで作られたフルートです。
北部の乾燥した地域では竹の代わりに木が使われます。そもそもアメリカインディアン、というとアリゾナやコロラドの荒野を馬で駆けぬけるイメージがあるように、インディアンフルートも木製が主流です。

これはネイティブ・ラブフルート工房の製品。緑と水の豊かなヨセミテ国立公園に隣接する絶好のロケーションで製作されました。

機能に徹底したインダストリアルなデザインで、装飾は一切ありません。バードにターコイズ石を貼ってワンポイントにしている程度。かえってそのせいでアカスギの美しい木目がひきたちます。バードは本体にしばりつけているだけなので簡単に取りはずすことができます。メンテナンスに便利です。

このフルートの指穴は6つで、上から3番目の指穴を革ストラップでかくして5つ穴フルートとして使っています。上から3番目の指穴は半音穴です。ストラップをはずして6つ穴にするとドレミファソラシドが吹けるようになります。雰囲気の違う音階も吹けるようになります。
最初は5穴フルートで練習して、慣れてきたら6穴にしていろいろ遊ぶという使い方です。

メイプルのフルート、6穴

» メイプルのインディアンフルートを吹いてみた

メイプルで作られたフルートです。
先のアカスギのフルートもそうですが、このように木目の美しいところを選べばそれだけで装飾になります。3カ所にぐるっと輪っかとラピス粒の象嵌。木製のフルートはふつうこのくらい飾りたてます。彫刻やペイントや羽根かざりでもっとごたごたに飾りたてたフルートも見かけます。

青く染めたバードは知恵を象徴する大鴉(オオガラス)をかたどっています。このように鳥の形をしているのが”バード”という名の由来です。凝ったフルートになるともっとリアルな彫刻が付きます。彫刻のモチーフは鳥のほかにトカゲ、ヘビ、カメなど爬虫類からリス、オオカミ、クマなどいろいろあります。魚のサケ、クジラなんてのもあります。

試聴サンプルはストラップをはずし6穴フルートにして特殊な音階で演奏しました。この音階で吹くとなんだかヒロイック?な雰囲気になります。6穴フルートはこのような遊びもできます。
製作はアーストーン・フルート工房。

ドレミフルート、7穴

西洋音階のインディアンフルートです。指穴が7つもあります。
インディアンフルートはもともと西洋の音楽を演奏するように出来ていませんから、無理にふつうに曲を吹こうとすると要らぬ苦労をすることになります。ドレミフルートはふつうに曲を吹けるように、最初から音階がドレミファソラシドになっています。音域も若干広くなっています。

このドレミフルート(正式名称はダイアトニック・フルート)は、女性演家のメアリ・ヤングブラッドが好んで使用します。

いろいろなインディアンフルート その2

ドローンフルート

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2本のインディアンフルートを1本に束ねたフルートです。
指穴のあるメロディー管と、それと指穴のない伴奏管がいつも同じ低音―ドローン―を鳴らします。吹くと2つの音が鳴って一人で合奏できます。これはスピリット・ウインズ工房の製品ですが、近年このタイプの改造フルートがあちこちで作られるようになりました。

伴奏管には指穴がなく単に吹いて鳴らすだけですから、演奏の難易度はふつうのインディアンフルートと変わりません。手軽に一人合奏ができると人気の高いフルートです。これに私は伴奏管にドリルで指穴を1つあけました。2種類の伴奏音を出すことができます。

ダブルフルート

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ドローンフルートの伴奏管に指穴をあけました。
メロディー管の上3つの指穴を左手で押さえ、伴奏管の下3つの指穴を右手で押さえて演奏します。「あれ?低い音どうしはどうやったらハモるの?」と気づいたかもしれません。できません。実際、左右の音の組みあわせにはかなりの制約があります。その制約のなか、いかにも自由自在なように吹いてみせなければなりません。

逆に左右の運指の組みあわせにはパターンがあるので、演奏自体はそれほどむつかしくないです。「どう演奏するかを考える」のがたいへんなわけで。

工夫にくたびれたらコルク栓で伴奏管の指穴をふさぐと、ふつうのドローンフルートになります。

いろいろなインディアンフルート その3

インディアンフルートには、現在のフルートと起源の異なる古いフルートがあります。博物館に眠っていたそれらをコヨーテ・オールドマンがすこしずつ復元しています。

アナサジフルート

» アナサジフルートを吹いてみた

アリゾナ州の洞窟遺跡から出土した、1400年前の古代人が吹いていた笛です。同時期の壁画に描かれている笛吹き男―精霊ココペリ―の笛だとも言われています。

木管に6つの指穴を開けただけの原始的な笛です。尺八やケーナのように管の縁を吹いて鳴らします。この手の笛は音を出すのがむつかしく、アナサジフルートは大型低音なので更にむつかしい。音階はメジャー五音階(ドレミソラ…)で音域は1オクターブ半~2オクターブ。明るい雰囲気の音です。

ホピの笛

» ホピの笛を吹いてみた

北アメリカインディアンのホピ族の笛です。アナサジフルートから指穴が1つ退化して消失しました。すこし小型になったのでアナサジフルートよりは吹きやすい、と言ってもただの木管を吹いて鳴らすようなもので、初心者にはかなり敷居が高い。

先端にはまっているのはヒョウタンです。コヨーテ・オールドマンによるとこれが伝統的なデザインとのこと。これが拡声器なのか消音器なのか、今ひとつ不明です。かぽっと取りはずすことができて、取りはずしても違いがよくわかりません。単なる飾りかもしれません。

いろいろなインディアンフルート その4

イーグル・ボーン・ホイッスル

その他にも北米インディアンはたくさんの笛を持っています。
これはイーグル・ボーン・ホイッスルという、鷲の骨で作った笛です。鳥が鳴くような澄んだ高い音色です。インディアンたちはこの笛を、狩猟や祭事の合図に用いました。

» イーグル・ボーン・ホイッスルを吹いてみた

因みにこれは陶器で作ったレプリカです。
本物はきっと白頭鷲などの翼の骨で作るのでしょうが。レッドデータアニマルなので殺してはだめです。

伝説と歴史

インディアンフルートの起源がいつなのかは、はっきりと言えません。
伝説ではインディアンフルートは、好きな娘に結婚を言いだせない内気なインディアンの若者のために、キツツキがプレゼントしたことになっています。若者がフルートを吹くとそれを聞いた森中の獣や鳥たちが集まり、最後に美しい娘がやってきて彼のそばに座ったのでした。


―これが、インディアンフルートがラヴフルートと呼ばれる由縁です―
文化人類学的には、中央アメリカのマヤ、アステカから伝わった竹笛が起源ではないかと憶されています。

インディアンフルートによるプロポーズは広く行われていたようです。
カイオワ族の若者は夜、意中の娘の眠っているテントのそばでフルートを吹きました。娘が起きてきて「笛の音が聞こえたので」と言ってくれたらおめでとう、一晩中知らないふりをされたら脈なしという決め事でした。

インディアンフルートの歴史はインディアンの迫害の歴史そのものです。
一時期は絶滅寸前になりましたが、1970年代にインディアンの有志たちが村々をまわり、長老たちから古い歌やフルートの曲を学んで世に広めていきました。1980年代中頃からインディアンの文化や生き方が見直されるにつれ、インディアンフルートもまた脚光を浴びるようになりました。
今日では世界中の人々から愛されています。